極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました
16話「音が溢れ出すノート」
16話「音が溢れ出すノート」
彼の部屋は最上階に近い高さにある部屋だった。1つ1つの部屋が広いため、ドアの間隔も広い。椿生が足を止めたのは角部屋の前だった。
異性の部屋に入るのは、幼馴染みである叶汰しか経験がなかった。そんな畔の様子を察知してか、椿生は『あんまり綺麗じゃないけど、ゆっくりしてね』などと、話をかけてくれる。部屋に入ると、そこには街の景色が見える大きなガラス張りの窓が出迎えてくれた。昼間の街がキラキラと光っている。夜になったらまた素敵な景色が見えるのではないか、と畔はその景色に釘付けになっていた。
『この景色は俺も気に入っているんだ。畔ちゃんも好きになってくれると嬉しいよ』
『はい………。椿生さん、私はここに居てもいいのでしょうか?こんなに騒がれているのに…』
『畔ちゃん』
有名人だという自覚が足りなかったのは自分だ、と畔は反省していた。叶汰が怒鳴るのも仕方がない。
マネージャーの根本には連絡しており、了承を得ている。落ち着いた明日にでも今後の打ち合わせと、噂の動画の説明をすることになっていた。
『君は悪いことをしたわけではないんだよ。ただ公園で歌を歌っただけだし、恋人である男と手を繋いでいただけだ。……まぁ、あの時は付き合ってはいなかったかけどね』
『…そうですね』
畔はその事を思い出すとつい微笑んでしまう。畔にとって、とても思い出深い出来事で、幸せな瞬間だった。
けれど、それが問題になってしまうなど皮肉なものだ。
『あぁ。きっと君のファンは新曲の発表も君の幸せもお祝いしてくれるんじゃないかな』