極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました
17話「暑い頬と指先」
17話「熱い頬と指先」
畔が気がつくと窓の風景が真っ赤に変わっていた。もう夕方だと気づき、畔はハッとした。
畔は近くに居た彼の腕を取った。
『椿生さん、仕事あるって言ってましたよね?私のせいでダメになりましたか?大丈夫でしたか?』
『もう少しゆっくり手話をしてくれないと、わからないよ』
畔はコクコクと頷いて、先程と同じ事を彼にもう1度伝えた。本来ならばその後は仕事に行く予定だったはずだ。だが、彼は畔から離れずにいてくれた。そして、自宅にまで招いてくれたのだ。家にお邪魔してしまい、迷惑をかけたことを畔はとても申し訳なく思い、そして焦っていた。
『自分の事ばかりでいっぱいいっぱいになってて………』
『いいんだ。日頃、真面目に働いているから、少しぐらい休んでもいいよ』
そんな風に冗談を言いながら笑う椿生。畔を心配させまいと明るく振る舞ってくれているのがわかり、畔は更に申し訳なく思った。
『せめて、家事だけでもさせてください。夕食も私が作りますので』
『気にしなくていいよ。料理は苦手でほとんどしないんだ。だから、材料も道具もあまりないんだ。さっきデリバリーを頼んだから、今日はそれを食べよう?』
『すみません』
『今度、手料理を食べさせてくれる?』
『ひっ!』
役に立てないと、シュンとしてしまった畔だったが、その言葉で一気にやる気が出てきた。勢いよく顔を上げて頷くと、彼はくくくっと声を殺して楽しそうに笑っていた。そんな彼を見て、畔も自然と笑みがこぼれたのだった。