極上社長からの甘い溺愛は中毒性がありました

 畔がスタッフの案内で連れてこられたのは、あの病院の中央にあるステージだった。吹き抜けの窓から天然のライトが注ぎ、ステンドグラスも輝いている。
 ステージに立っている女性が何かを言った後、観客たちはこちらを向き、拍手をして畔を出迎えた。
 久しぶりの感覚で少し緊張するが、畔は笑顔でそれに応えながら、ステージへと上がった。

 手話で紹介してくれた司会の女性に頭を下げて会釈をし、畔はマイクの前に立った。マイクの横には、小さなパソコンが置かれており、そこで音楽がスタートすると楽譜が点滅する。その点滅を追ったり、微かに感じる振動から音楽を読み取っていく。
 畔は、サンダルを脱ぎ裸足でステージに立つ。直接床から伝わる振動を肌で感じたいのだ。久しぶりのコンサート。万全を期っして望みたかった。

 畔がマイクをつかみ、目を瞑る。
 すると、後ろのスピーカーから音の波が襲ってくる。けれど畔には振動のみが伝わる。

 目をゆっくり開き、すぅと息を吸う。
 喉の奥から歌声を発する。吹き抜けがあるためか、とても響いていくのがわかり畔は気持ちよく歌えることが嬉しかった。


 畔が歌い始めると、始めは驚いた顔をしたお客さんが多かった。
 耳が聞こえないのに、正確な音程で歌える事に驚く、とよく言われる。だが、それにもすぐに慣れ音楽自体を楽しんでくれるはずだ。
 沢山の時間をかけて作り上げてきた、大切な大切な曲を、畔は丁寧に歌い上げた。


 歌うことが楽しい。
 聞いてもらう事が嬉しい。
 音楽は聞こえなくても、好きでいられる。

 そんな気持ちを込めて、畔は今日も歌った。
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