仮面夫婦マリアージュ～愛のない一夜でしたが妊娠しました～

「すいません…」

「今度の彼が新しい見合い相手か？」

「はい…」
私は静かに頷く。

彼に誘われ、最上階のフレンチレストランでディナー。
私はディナーの後直ぐに帰る予定だったけど、スイートルームをリザーブしていると言われ、部屋の前まで一緒に行ったけど、急に怖くなって逃げ出し、エレベーターで二階下の宿泊フロアまで逃げて来た。

「そのヒールじゃ歩けないな…俺の部屋に来いよ」

「え、あ…」

「仕事で泊まってんだよ…言っとくけど、疚しいキモチはないぞ」

色素の薄いアーモンド形の瞳が優しい色を湛えていた。

彼の紳士的な態度に絆され、彼の部屋までヒールを脱いで、歩く。
二、三メートル歩いた場所が彼の宿泊部屋。
カードキーを差し込み、ドアの施錠を解除した。
「どうぞ」

彼の泊まっていた部屋は広々とした空間のシングルルーム。
右手に提げていた白い袋から缶チューハイと肴のするめとジャーキーを取り出して、窓際のテーブルに置くとベット脇のサイドテーブルの内線電話でフロントに電話を掛けてくれた。

「ヒールの修理もOKだってさ。今から取りに伺うって…」

「ありがとうございます」

「座れば？」

「はい」
彼に促されて窓際の肘掛ソファーに腰を下ろした。