仮面夫婦マリアージュ~愛のない一夜でしたが妊娠しました~
「話はついた。帰ろうか?」

「何処にですか?」

「何処にって…君の帰る場所は一つだろ?早速、工藤社長と話をしないと」

「お父様と話をするんですか?」

私の方が戸惑う。
「善は急げと言うだろ?」

彼は軽くパーマのかかった前髪を掻き上げ、言い切った。

梶原さんには甘い言葉で絆され、男に免疫のなかった私はあっさりと騙された。
でも、周防さんは最初から自分の手の打ちを明かし、裏はなかった。

私は父への信用回復の為には、彼を利用するしかない。
彼もまた、不要な見合い話を潰す為、私を利用する。

ギブ&テイクで成り立った彼との関係。

「はい…こちらこそよろしくお願い致します。周防さん」
私は彼に畏まった様子で頭を下げる。
「こちらこそ…よろしく」


彼も私の畏まった挨拶に応えるように組んでいた足を戻し、恭しく頭を下げた。


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