仮面夫婦マリアージュ~愛のない一夜でしたが妊娠しました~
彼の頭の中では筋書きは決まっていた。
その筋書きを知らない私はどう動けばいいのか全く分からず、目の前の彼を見守るしか出来なかった。

「あの…周防副社長…顔を上げてください…」

セレブの女性が挙ってアプローチして来る旬の彼が、私と偽装結婚する為に土下座をする。

「許してくれるまで顔を上げませんよ…工藤副社長」

「わしの方が困ります…周防総理の甥っ子である貴方に土下座をされては…どうか頭を上げてください…」

父の方が狼狽し、対処に困っていた。

「・・・許してくれるまでは…」

「許しますから…こちらの方こそ…よろしくお願いいたします…亜優お前も何か言いなさい…」

「父は許してくれるようです…顔を上げてください。周防さん」

「そうですか…」

周防さんは顔を上げ、額に零れた前髪を掻き上げ、安堵した。

長谷川社長の時はこんな風な挨拶は全くなかった。父が強引に政略的に勧めた見合い結婚。
私の意志は全く反映されなかった。

長谷川社長自身も私に全く興味がなく、私との結婚もビジネスの一部。
彼の冷たい態度がそう語っていた。
辛うじて、私の意志を尊重してくれたのはハネムーンにイタリアのアマルフィ海岸を選んでくれたコトぐらい。





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