僕らの苦い夏の味
一週間ほど前に幸汰が私の家を訪れてきて、突然こう言ったのだ。


『俺、もう野球やめる。俺がいると、みんなが不幸になる』


いわく、グローブやバット、その他の野球道具一式がめちゃくちゃにされていたと。

犯人を捜そうにも、協力してくれる味方がいない。

コーチに相談しても、なんだそのくらいのこと、トップはいつだって味方からの厳しい視線に耐えなければならないのだと言われたと、自嘲的な笑みを浮かべていた。

それからというもの、幸汰は学校でも野球部の人と話すことは一切なくなり、コーチから謝罪を受けても、戻る気は全くありません、と機械のように繰り返していた。

手元でスマートフォンが震える。

メッセージの差出人はおばあちゃんだ。

最近やっと使い方を覚えたと、嬉しそうにメッセージを送ってくるようになった。


「幸汰、ちょっとおばあちゃんの畑まで行こうよ」


静かになった背中にそう話しかけると、そろりと顔がこっちを向く。


「大きいトマトができてるからもぎに来な、だってさ」

< 3 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop