溢れる想いを青に込めて。
観覧席からは全体をはっきり見ることが出来た。
50メートルの澄んだプールを眺めているとゴホン、というわざとらしい咳払いが耳を通り、それに続いて開会宣言の声が会場に響いた。
「まずは個人種目から。バッタとバックはすぐだから自分の番確認して召集所いけよ」
開会式が終わった直後、部長がみんなを見回して言う。
まず部の中で初めに泳ぐのは高峰先輩。
高峰先輩は笑って召集所に向かっていったけど、本当は不安でいっぱいだと思う。
―この大会は高峰先輩の居場所を証明するためにあるのだから。
高峰先輩が無事に笑って帰ってくることを願いながら、プールに目をやる。
高峰先輩はちょうど飛び台にのるところだった。
「そーれ!」
電子音の後に続いて、私たちは必死に声を出す。
順調な滑り出しで2位に位置づける。
いつもと同じ、いやそれ以上にパワフルで迫力あるキックで進んでいく高峰先輩は、この中で誰よりも輝いていた。
―水泳が全て、とでもいうような泳ぎ
先輩は今を、この瞬間を、1番楽しんでいるに違いない。
水泳を出来るのが今日で最後かもしれないとかそんなことはどうでも良くて。
ただひたすらに水泳を必要としている。
―水泳を愛してる。
1位との差は1メートルくらいあった。
それでもその差を広げることはなく食らいつきながら50メートル地点に達する。
自分の限界を恐れない、先輩のたくましい泳ぎに心をうたれる。
「いけ!おせ!ファイトー海晴!!」
声が裏返るのなんか気にしないで懸命に応援した。
私が、私たちが、できるのはこれだけだから。
先輩は1位の人にジリジリと追いつき頭1つ分の差まで縮まる。
残り25メートル。
1位の人と先輩の激しい戦いが繰り広げられる。
残り10メートル。
息をすることすら忘れてプールに釘付けになる。
周りの音が聞こえなくなるくらい先輩のひとかきを、先輩の指先を、一心に見つめた。
そして――