王子様の寵愛は突然に―地味っ子眼鏡への求愛のしかた―【コミカライズ原作】
プロローグ 真面眼鏡と和菓子と社長と

はじまりは、キスからだった――――



上質なインテリアに囲まれた社長室。

一面のガラス窓から都内の夜景が一望できるその部屋で、事は起こった。

まさか、こんなことになるだなんて。

誰が想像できただろう――


「やっぱり⋯⋯責任とってもらおうかな」

「⋯⋯な、なにいって」


紳士だった彼の突然の変化に驚いた私は、それしか発せなかった。


「ずっと焦がれていた小うさぎが、心配してのこのこついてきた。ただで帰すのは勿体ないよね――」


うさぎ? 勿体ない?


「あ⋯⋯」


その途端、強く手を引かれて、私はそのまま彼の上に倒れ込んだ。

眼鏡がソファへと転がり慌てて顔を上げると、鼻先が触れそうな距離に美術品のように綺麗な顔がある。

それだけで心臓が破裂しそうなのに⋯⋯


「――君が欲しい」


長い腕が背中と腰に絡みつき、深いソファの上で向かい合うように抱き締められる。

かろうじて、ソファに膝をついていた私は、不安定なバランスの中、飛び込むような形で身を寄せてしまった。


「――だから僕と結婚して」


眼鏡がなくともくっきりと見える距離で、金色の睫毛を揺らし、甘い顔が私を覗き込んでいた。

そして、一瞬だった。

するりとうなじに指先が絡みつき、

彼は頬を傾け、

ゆっくりと碧色の宝石を瞼の奥にしまいこむと、

いつの間にか、私たちの唇は触れ合っていた。


こんなことになるなんて⋯⋯思わなかった―――




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