王子様の寵愛は突然に―地味っ子眼鏡への求愛のしかた―【コミカライズ原作】
プロローグ 真面眼鏡と和菓子と社長と
はじまりは、キスからだった――――
上質なインテリアに囲まれた社長室。
一面のガラス窓から都内の夜景が一望できるその部屋で、事は起こった。
まさか、こんなことになるだなんて。
誰が想像できただろう――
「やっぱり⋯⋯責任とってもらおうかな」
「⋯⋯な、なにいって」
紳士だった彼の突然の変化に驚いた私は、それしか発せなかった。
「ずっと焦がれていた小うさぎが、心配してのこのこついてきた。ただで帰すのは勿体ないよね――」
うさぎ? 勿体ない?
「あ⋯⋯」
その途端、強く手を引かれて、私はそのまま彼の上に倒れ込んだ。
眼鏡がソファへと転がり慌てて顔を上げると、鼻先が触れそうな距離に美術品のように綺麗な顔がある。
それだけで心臓が破裂しそうなのに⋯⋯
「――君が欲しい」
長い腕が背中と腰に絡みつき、深いソファの上で向かい合うように抱き締められる。
かろうじて、ソファに膝をついていた私は、不安定なバランスの中、飛び込むような形で身を寄せてしまった。
「――だから僕と結婚して」
眼鏡がなくともくっきりと見える距離で、金色の睫毛を揺らし、甘い顔が私を覗き込んでいた。
そして、一瞬だった。
するりとうなじに指先が絡みつき、
彼は頬を傾け、
ゆっくりと碧色の宝石を瞼の奥にしまいこむと、
いつの間にか、私たちの唇は触れ合っていた。
こんなことになるなんて⋯⋯思わなかった―――
――――――――
< 1 / 489 >