王子様の寵愛は突然に―地味っ子眼鏡への求愛のしかた―【コミカライズ原作】
「⋯⋯会ったばかりなのに、会いたいなんておかしいです⋯⋯。私といたって楽しくありませんし⋯⋯」
「出会ったばかりだからもっと知りたいと思うし、一緒にいたいと思う。僕は今日一緒にいて楽しかったよ」
やっと出てきた私の言葉に、間をおかず、そして断言するように被せられた。
なら、ええと⋯⋯
「⋯⋯それにコンペ前はちょっと時間が取れませんし」
「だからお願いをしたんだよ。期間だけは譲れないから」
言葉を詰まらせてしまった。
その後も、幾度も同じようなやりとりが繰り返された
「お忙しいでしょうし」とか、「仕事の邪魔をしたくない」とか
なのに、どれも笑顔言い包められてしまって。
結局、どんな言葉を連ねても被せられる甘い包囲網と、そして疑問をねじ伏せてくる魅惑的な誘惑に、私は手も足も出なくなってしまった。
『なんで私といたいんですか』
さすがに、そこまで自惚れたことは、聞けなかった。
喉から出かかって、何度も飲みこむ。
嫌われていないのはわかった。
一時的かもしれないけど、気に入ってくれてるのもわかった。
でも、それら全てを鵜呑みにして『なら会いましょう』と言う勇気が私には無い。
だって、仮に⋯⋯
これから会ううちに、この人のことが好きになったらどうすればいい?
この関係から抜け出せなくなったらどうすればいい?
恋すらしていないのに、こんなこと思うのはおかしいかもしれない。
でも、まだ数えるほどしか会っていないけど、漆鷲社長がどんなに素敵な人なのか、恋愛経験皆無の私にもなんとなくわかる。
返事に困り俯く私の頬を、温かい手のひらが寄せられ視線を合わせられる。