王子様の寵愛は突然に―地味っ子眼鏡への求愛のしかた―【コミカライズ原作】

再び前を向いて歩き出すと、背後からも足音が聞こえてくる。

辺りは街灯の光だけが頼りの、真っ暗な空間。

バス停までのこの道は、仕事帰りの人がちらほら遠目に見えるくらいで、近くに人陰はない。

つまり、助けを求められる距離に人はいないのだ。

相手が本当に不審者かはわからないけど⋯⋯


逃げた方が良いに決まってる。


かたく決意をした私は、バッグ肩にかけ直して、眼鏡をグッと押し込んで

馬のごとく走り出した―――。


「ちょっと待って」


背後で焦ったような声が上がったけれど、その声を振り切るように、夜の遊歩道を駆け抜けた。

こんなに全力疾走するのは久しぶりで、ひとつ間違えば脚がもつれて転んでしまいそう。

少しだけ冷たい空気が、私の頬を撫でる。

自分の息づかいが、やけに耳に響く。

ちぎれそうなくらい手を振って、ひたすら街灯の灯るコンクリートの道を走った。
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