王子様の寵愛は突然に―地味っ子眼鏡への求愛のしかた―【コミカライズ原作】
ちらりと社長に視線を向けると、とっても意地悪な笑顔を浮かべ、じりじり寄ってくる。
さっきまで髪を梳いていた手を手すりに掛け、もう一方も私を封じ込めるように反対側についた。
「そっか、翻弄されるんだ」
「っ⋯⋯」
しっかりと伝わってしまった。
腰を屈めて、私の耳元に寄せられるツヤツヤの唇。
「ねぇ、どういうときに翻弄されるの?」
「っ―――」
「教えて⋯⋯?」
わ、わかってるくせに。
少し色気を帯びた、甘えるような声か注がれる。
頬に触れる金色の柔らかい髪。
声に反応してゾクっと震える身体。
それだけで、足から力が抜けて倒れそうになる。
ああ⋯⋯もうっ
「こういうときですよ⋯⋯!」
胸をぐっと押しのけて顔をあげて睨みつけると、
「ふっ⋯はははっ! 顔真っ赤! ごめん。嬉しくて調子に乗っちゃった」
「っ――」
漆鷲社長は顔をくしゃっとして、少年のように笑っていた。
大きな碧色の瞳がなくなるくらい細められて、白い歯を見せて
途端に、私の心もまた休まず揺れる。
嬉しくてって⋯⋯。
いちいち惑わせる言葉を言わないで欲しい。
心臓がいくつあっても足りないよ。