王子様の寵愛は突然に―地味っ子眼鏡への求愛のしかた―【コミカライズ原作】

しかし、靴音はすぐさま近くまで迫ってきて、伸びてきた腕に軽々と手首を捕らえる。


「ちょっと――待って!」

「ぎゃ」


引かれた反動で、男の胸に勢いよく身体を打ち付けた。

急いで顔をげると、大きな身体から濃いスモークのサングラスが見下ろしていて、恐怖心が駆けめぐる。


「―――?!」


いやだ!!


「あの⋯⋯」


何か言ったような気がするけど、そんなの聞き入れる余裕はなかった。

私は意を決して、手にしていたハンドバッグを掲げて

――勢いよく振り降ろした。



「かくごおぉ――っ!」


うおりゃぁぁ―――!!!


「――ちょ⋯⋯!?」



――ガツンという鈍い音が響いた。


水筒の入ったバッグを、顔で受け止めた男は「ぐぇ!っ」とカエルみたいな呻き声をあげて、コンクリートに膝を落とす。

その衝撃で、するりの帽子が落ちて、中からはらはらと髪がこぼれ、あらわになった光のような色に目を丸くした。

まるで風に揺らめく、柔らかそうな金色の糸のような髪がふんわりと緩やかに顔周りを包む。

夜を跳ね返すような珍しい髪色に、密かな予感が走った私は、即座に逃げようとしていた足をぐっと踏み留めてしまった。
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