王子様の寵愛は突然に―地味っ子眼鏡への求愛のしかた―【コミカライズ原作】
フロアから退室しようとしたとき、
片隅で、黙々とひとりで仕事をする女性の姿が飛び込んできた。
あの女性⋯⋯。
思えば、挨拶しているときも、一番後ろの方から僕を仏頂面で眺めていたな。
マスコットキャラクターみたいな容姿。そう思った。
かと言って、別に変だとか可愛いとか、そう言った気持ちは湧いてこなかった。
だから、なおさら不思議だったんだ。
僕の目には、まるで景色から切り取られたように異様にくっきりと視界に入り込んできて、そこだけ別世界のように感じた。
天使の輪が浮かぶ、顎で切り揃えられた黒髪。
小さな白い顔には重そうな眼鏡かけていて、緩いのか度々それを指で押し上げる。
デスクや資料にはみっしりメモ付箋が貼られていて、まだ余韻で少し騒がしい周囲に横目をふれずひたすら仕事に打ち込んでいた。
いつの間にか足を止めて、彼女を見ていた。
何かを考える仕草や、はっと何かを書き留める熱心さ。
商品開発に所属していた頃の自分を思い出させる。