王子様の寵愛は突然に―地味っ子眼鏡への求愛のしかた―【コミカライズ原作】
これは、会長としてではなく、ひとりの祖父としての頼みなんだ。
永斗さんが可愛いから縁談をしつこく勧めて。
永斗さんが大切だからこうして頭を下げている会長。
だとすれば、
私がすることは会長に頭を上げてもらうことではないし。
ワタワタしてる場合でもない
やることはひとつだけだよね。
「漆鷲会長⋯⋯」
静かに呼びかけると。
会長はゆっくり身体を起こして私と目線を合わせる。
一歩近づいて、向き合って
そしてはっきりと続けた。
「私は、永斗さんから様々なことを、教えてもらいました。それは、自信をもつことだったり、ちゃんと言葉にする大切さだったり⋯⋯。それまで真剣に向き合って来なかったことに、変わりたいと思うきっかけをくれたのは彼なんです。」
会長の真っ黒な瞳がかすかに開く。
「実際今は、まだその階段を登ってる途中かもしれませんが。でも、そんなふうに一歩一歩成長してる姿を隣で、見ていてもらいたいと思いますし、
今度は私が、一緒に過ごす中で、企業を背負って生きていく彼のために、少しでも⋯⋯何かができたらいいなと思います。だから―――」
私は力いっぱい、頭を下げた。
「――こちらこそよろしくお願いします」
そのまま頭を下げていると、絨毯を踏みしめる音がして
「⋯⋯ありがとう、真島さん。いや⋯⋯くるみさんだな」
顔を上げると、会長は私に向かってスッと手を差し出した。
シワの深い目元が、笑顔で目がなくなっていた。
「甘ったれな孫を頼む」
「はい⋯⋯そんなところも大好きなので」
私たちは、笑顔で握手を交わした。
何となくだけど、それを見守る島田さんも無表情の奥に笑顔を浮かべていていたような気がした。
――――――