王子様の寵愛は突然に―地味っ子眼鏡への求愛のしかた―【コミカライズ原作】
窓の外はオレンジ色になっていた。
帰宅の準備を整え、別邸のエントランスに並ぶ私たちを見ている漆鷲会長は、心なしか寂しそうに見えた。
「なにも急がず、夕食くらい食べていいじゃないのか」
「今日は久々に二人で食事をして帰る予定だから帰るよ。式のことは決まったら連絡する」
外の暑さに備えた永斗さんは、美しい所作でスーツのジャケットを脱いで右腕にかけた。
「早めにだぞ」
「わかってる」
その後、私が何度目かのお礼を伝え終えると、私たちの様子を伺っていたメイドさんが、タイミングよく玄関の扉を開いてくれた。
開いた途端に、流れ込んでくる灼熱の空気。
永斗さんに続いて外へ出ようとした、そこへ―――
「来美さん」
「は、はい」
漆鷲会長の声。
慌てて振り返った私が玄関にもどると、漆鷲会長は頬をポリポリかきながら、首を傾げていた。
「そういえば、授賞式で渡したアレは使っているのか?」
アレ――記念日のことか。
「いえ、まだ使っていませんが、使用をはじめる日はもう決まっています」
「そうか、良かった」
それだけ会話を終えると、会長は安心したようにホッと息をつく。
「素敵な記念品、ありがとうございました」
「あぁ。また遊びにおいで、ふたりとも」
そう言った会長は、笑顔で私たちを見送ってくれたのだった。
『授賞式で渡したアレ』
素敵な記念品は、まだ寝室のサイドボードの中に大切にしまってある。
―――――――