クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
彼が手に取ったのはワープロソフトのハウツー本だった。しかもでかでかと初級と書いてある。
「藤村は実はパソコンの作業が苦手なんですよ。色々買ってきて勉強しながらやってます。バージョンが変わると結構仕様が変わるじゃないですか。その度にため息つきながら買い替えるんですよ」
なにを思ったか、彼は薄く口元を歪めた。
「それじゃあ、ここの仕事はきついでしょうね」
「いえいえ、いま時どこに行ったってパソコン作業のない事務職なんてないですからね。ここのことはいつも褒めていますよ」
「褒めているんですか?」
「ええ? そうですよ。喫茶コーナーが素晴らしいとか、社屋はこの通り綺麗だし、こんなに素敵な席が自分の席だと思うと毎日来るのが楽しいって言ってますよ」
「――へえ」
その返事がなんだか意外そうに聞こえて、室井首を傾げた。