クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
「何か困ったことはありませんか? って、聞かれたから、俺はないけどお前が、制服がほしいって言ってたってな、報告したんだ」
「そうだったんですか……。ありがとうございます、課長」
室井は早くもすっかり『SSg』の営業マンとして馴染んでいるし、鏡原社長に頼られているともっぱらの評判だ。
もともと室井は優秀な営業マンである。花マルのような小さい潰れかけの会社にいたのは、心のリハビリのためで、その証拠に『SSg』に来てからは水を得た魚のように成果を出している。
彼はそもそも花マルの森田社長の力など借りなくても、転職先に困らなかっただろう。紫織を心配して付き合ってくれたのもあるだろうが、むしろ宗一郎から是非にと入社を誘われたのかもしれないと、紫織は思っていた。
制服のことも、信頼する営業部のマネージャーがそう言うなら、と聞いてくれたのに違いない。
そんなふうに想像しながら、紫織は小さくため息をつく。
制服をもらえるのはうれしいけれど、そのぶん辞め辛くなってしまう。
紫織がいま欲しいもの。
それは制服ではなく、辞めるための正当な理由だった。