クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
これからひと月の間に、急いで職探しをするという。
『そっくりなんです。元彼と。そっくりなんですけど、中身は全然違うんです。彼は一途で優しい人だったから――。とっても優しい人で』
女が友だちの話として切り出す恋愛話は、ほぼ間違いなく、本人の話だ。
想像するに、鏡原社長は紫織の昔の恋人なのだろう。
なにか理由があって別れたふたり……。
いったい何があったのか。
紫織は清楚な美人だ。控え目で不器用で臆病で、でもそんなところは男からみると何の欠点にもならず、かえって守ってあげたいという保護欲を高める魅力でしかない。
だからモテるし『花マル商事』にいると、掃き溜めに鶴と言われたものだ。
でも、紫織は頑なに男を受け付けなかった。
いつだったか酔った時に『忘れられないんです』とポツリと言った。『私のせいで、酷い別れ方をして彼を傷つけてしまって』と。だから自分はもう恋なんてできないし、一生結婚もしなくていいんだと。
その原因となった恋の相手が、鏡原社長だとしたら。
左右に首を振りため息をついて、室井は紫織の退職届を引き出しにしまった。
さて、そろそろ帰ろうかと思っていた時、ふと問題の鏡原宗一郎が現れた。
「室井さん、このあと軽くどうですか?」