クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
 ――え? 今日?
 月曜から飲みに行くのか?

 そう考えて一瞬怯んだが、飛んで火に入る夏の虫とはこのことかもしれないと思った。

「ああ、いいですねー」

 ふたりが入ったのは『SSg』からほど近い焼き鳥屋。
 軽くビールで喉を潤しながら、他愛もない世間話に花を咲かせた。

 仕事に関係することだけでも、話題には事欠かない。若い社長からすれば室井から学ぶことは多かったし、仕事の内容となれば逆に室井が彼から教わることが多い。

 そうこうするうち、やがて話はプライベートな話になった。
「室井さんは、結婚の予定とかないんですか?」

「まぁ今のところはね。独りも慣れ過ぎると、これはこれで楽だから」

 室井は伏し目がちにクスッと笑った。
「藤村がね、誰ももらってくれなかったら嫁にもらってくれって言うんですよ」

 この言葉を彼はどんな顔をして聞いているのかはわからない。
 指先で持ったグラスをゆらゆらと回しながら、さあどうする?青年よ。といたずらっこのように心でクスリと笑った

「あいつ美人でしょ? 気持ちも優しいし結構モテるんですよ。なのに誰かに義理立てしているのかなぁ、『私は、恋はしないことに決めたんです』とか言って、片っ端から誘いを断って。それでも時々寂しくなるんでしょうねぇ。先週ふいにそんなことを言ってました」

 ちらりと彼を見ると、視線を落としている彼の喉仏が、息苦しそうに上下に動く。

「一体何があったのかわかりませんが、なんだかいじらしくてねぇ。そのまま四十にでもなったら、その時は嫁にしてやるよって言ったんですよ。その時、俺はもう五十だけど」

「あの、失礼ですが、おふたりはどういう……」

「あ、もしかして疑っています? そういや総務の陽子さんにもしつこく聞かれたなぁ、付き合ってるんじゃないかって。何もないですよ。こう見えて俺も女には不自由していないし、結婚はしてないけど通ってる女はいるんです」

「そうなんですか」

「社長は? どうなんですか? 結婚とか考えていないんですか?」

 やがて彼は、重たそうにゆっくりと口を開いた。
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