クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
 室井は心の中でやれやれとため息をついた。

 やはりそうかとわかったところで、どうしようと自分は思ったのか?

 こういうことは他人がでしゃばってどうこうできることじゃない。
 恋愛とはそういうものだろう。

「社長。俺は妻を病気で亡くしたんだけど」

「え? あ、はい。実は聞いて。知っていました」

「ああ、光琉が知ってますからね」

「すみません」

「いや、いいんですよ」
 クスッと笑って室井は懐かしそうに目を細めた。

「本当に愛していてね。妻のことが。だからあの時はもう、全てがどうでもよくなった。生きていることすらね。だけど人間ってのは不思議なもんで、死ぬほど辛かったことも、少しずつ忘れていくんですよ」

 彼は言葉を失ったように黙って耳を傾けている。

「だけど忘れられないこともある。忘れられないまま、心の中で固まっていくんだ。どんどん磨かれた宝石みたいにね。固くなって輝くんですよ。でも、社長はまだ三十でしょう? そんなものを作るには早いんじゃないのかな?」

 室井は宗一郎を振り返って、ニッと微笑んだ。
 俺が言ってあげられるのはこれくだいだ、と思いながら。
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