クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
「でも室井さん、取り返しのつかない事実を知ってしまったら、どうしたらいいんですか」
「え?」
「俺は……」
口ごもった彼は煽るようにグラスを開けた。
――取り返しのつかない事実?
一体なんだそれは?
その言葉から連想できることは、動かしようがないことがあるということ? いずれにしろ普通の恋愛問題だけではないということなのか。
言葉を続けない彼に、なんとなくこれ以上聞くことは憚られた。
間違いなく彼は苦しんでいる。
紫織も同じだ。
切ないかな、彼らはお互いのためを思って苦しんでいる。
それでも生きているならなんとでもなるではないか。
そう思いはしたもの、それが励ましになるとも思えず、室井は言葉には出せなかった。
生きているからこそ、辛いことだってあるだろう。
――がんばれよ、青年。
心の中で、室井はそうエールを送った。