クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
***

「え? チョコレート?」

「はい。八月一日は、社長と副社長、ふたりとも同じ誕生日なんですよぉ。この会社はバレンタインとかは特になにもないんですけどね。その代わりでもないですけどぉ、なんとなーく習慣に」

「そうなんですか」

「はい。そして、クリスマスにはおふたりからお返しのチョコレートがドンっと配られるんですよぉ」

 八月一日は宗一郎の誕生日。
 忘れたわけではなかったが、まさかこんなに大事になっているとは紫織には思いもよらなかった。

 光琉の話によれば、渡すチョコレートは五百円以下という決まりがあって、板チョコ一枚にリボンを付けて渡す人も何人かいるという。

 ――宗一郎。チョコレートだけは好きだったからなぁ。

 そう。お菓子類はあまり食べない彼も、チョコレートは別だったのである。学生の頃から、コーヒーとチョコレートは彼の中でセットだった。

 ふと思った。
 ――数少ない、彼の変わらない、いち部分ということか。

 とはいえ、いまの自分には関係ないイベントである。そう思いながら、聞き流したのは先週のことだ。
 午前中、廊下で会った光琉が言った。

「紫織さんは? いつお渡ししますか?」
「え? なんのこと?」

「やだぁ、先週言った社長と副社長へのプレゼントのことですよぉ」
「え? でもそれって、希望者だけじゃぁ?」

「もちろんそうですぇどぉ。大丈夫ですよ、お昼休みに買えば間に合いますって。ね、私からのお願い」

 目を瞑って光琉がすりすりと拝むように手を合わせる。
 なぜ彼女がこんなふうに頼み込むのかはわからないが、そこまでお願いされるとなんとなく断れない。仕方なく紫織はあきらめた。

「わかりました。了解です」

「よかったぁー。じゃあお願いしますね! 待ってまーす」
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