クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
 コンビニでチョコレートを買い、ドラッグストアでラッピング用の袋を買った。
 これがいまの精一杯。

 辞める時には心を込めて何かを贈ろうと思う。
 形に残らないなにか。その時はもう少しちゃんと専門店で買ったチョコレートでもいいかもしれない。

 席に戻り、ラッピングをして光琉のところに渡しに行った。

「はい光琉ちゃん、用意いたしました。よろしくお願いします」

「はーい。ありがとうございます。では、どうぞこちらへ。ちょうどいらっしゃるから、直接渡してくださいねぇ」

「え! いいわよ。ていうか嫌よ。お願い光琉ちゃん渡しておいて。じゃあ」

「あ、だめですよ。皆さんそうして渡してるんですからぁ。なかなかね、社長と話す機会がないでしょう?」
「だめ、ダメダメ!」
「さあ、いい機会ですから、さあさあ」
「いいの、私はいいのー!」
 光琉に腕を引っ張られ、それでも逃げようとバタバタあがいていると、ふいに声がした。

「藤村さん、どうぞ入ってください」

 ――え?
 いつの間にかそこには宗一郎がいた。
 毅然とした声は彼の声だったのである。

 名前を呼ばれてはさすがに無視することもできない。
 やむなく立ち止まった紫織はキュッと唇を噛んで、決心したように「はい」と頷いた。

 二度と入ることはないだろうと思っていた社長室にまた入ってしまった。でも今度こそ、本当にこれで最後だ。
 そう思いながら頭を下げて中に入った。
「失礼します」

「どうぞ。座ってください」

 椅子に浅く腰をおろして視線をテーブルに落としたが、向かいの席に宗一郎が座ると、紫織はすぐさま頭を下げた。

「――先日は、すいませんでした」
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