クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~

 エレベーターでのことは、やはりどう考えても大人げなかった。
 彼には社長という立場がある。社内においての公私混同は避けるべきだった。どう考えても非があるのは自分であるし、辞めるまでに、機会があればこれだけは謝っておこうと思っていたのである。

「いや、別に」と短く答えた彼は「それより何か困ったことはない?」と聞く。

 語り掛けるその声はずいぶんと優しい響きを帯びていた。

 でも、紫織の固く閉じた心には届かない。
 しつこいとさえ思っていた。

 テーブルの上に視線を落としたまま、頑なな姿勢を崩さない。

 もう何も、考えたくはなかった。
 考えることにも疲れた。

 今なにか考えてしまうと、それは全てがマイナスの方向に向かってしまう。宗一郎を傷つけ、自分も傷つく。

 いま紫織の頭にあるのは、一刻も早くこの部屋から出ることだけだった。

「なにもありません」

 すると。

「紫織、ちゃんと目を見て話して」と彼が言う。

 ――え?
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