クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
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『紫織、どう? 一人で寂しくない?』
 美由紀からSNSで入ったメッセージ。

『大丈夫だよ! 寂しくないと言えばウソだけど慣れなくちゃね』
 そう返信を返し、夕ご飯の写真をお互いに見せ合うなどのやり取りをしてスマートホンを置く。

 スマートホンの隣にあるのは就職情報雑誌だ。
 毎晩隅から隅まで眺めて、マーカーで印をつけたりしているが、問い合わせをしたところはまだ一つもない。

『SSg』を辞めようという気持ちに迷いはないが、考えてしまうのはこれからの人生のことだった。

 あと数か月で紫織は三十歳になる。

 特に大きな目標もなく、これをしたいという仕事があるわけでもない。

 こんなふうに、都内で一人生活することに、どんな意味があるのだろうか?

 京都に移り住んだ両親と別れてひとりになった時は二十五歳で、人よりは遅かったかもしれないけど、それでも自分の力で歩こうという勇気が漲っていた。

 面接を受けて断られて、アルバイト先でレジ打ちを間違って店長に怒られて、そんなことを重ねるうちに溢れていたはずの勇気は少しずつ萎んで小さくなってゆき。ぎりぎりのところで『花マル商事』に拾ってもらった。

 もしあのまま花マルにいることが出来たなら、少しは違ったかもしれないと思う。
 あのままもし変わらずに働いていれば、もしかしたら、いつしかまた恋もできたかもしれない。

 もしかしたらと考えたところで、どうにもならないとはわかっているけれど、それでもやはり考えてしまうのだ。

 だって、
 今よりは間違いなく、未来が開けていたに違いないから。

『SSg』という会社自体には、なんの不満もない。
 家賃の心配もなくなったのだから少しは貯金も貯まるだろう。人間関係も悪くはない。仕事には苦労することもあるだろうが、それはどこにいても同じだ。

 でもあの会社にいる限り、自分は一歩も前へ進めない。
 それどころかむしろ後退していると思う。
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