クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
 この前、ホテルのレストランで食事をしたあと、宗一郎の部屋に行った。
 彼の住む部屋を見たいと紫織がせがんだのだ。

 どこかに女の子の影でもあるかもしれないとドキドキしながら扉を開けたのに、あまりにも閑散としていて驚いた。もちろん歯ブラシもひとつだし、シャンプーも化粧類のなにも痕跡などない。

 ひと言で言うと、寂しい部屋だったのである。

 ワンルームのその部屋には最低限の家具と最低限度の物しかなかった。料理をしている様子は全くなくて、冷蔵庫に入っていたのは紫織が強引に通販で注文した野菜ジュースと冷凍庫のスムージー。
 その他には水とビールだけしかない。

 二年前今のオフィスに移った時に、その部屋も借りたのだという。他にいくつか買ったマンションはどれも賃貸に貸し出していて一度も住んだことはないらしい。

『職場の近くに部屋を借りたほうが、効率がいいからな』
 彼はそう言っていたし、確かにそうなのだろうとは思う。
 それにしても、あまりにも寂しい部屋だと思った。

 まるで、生きていることすら仮に生きているというような、生活の実態というか温もりのようなものが感じられなかった。

 付き合っていた学生のころは、お互いに親と同居の自宅暮らしだったのでどちらの家にも遊びに行ったことはなかった。

 紫織の厳しい母親は、付き合っている人がいると知ったら絶対に反対すると思っていたから宗一郎を招くことはなかったし、宗一郎も誘ってはこなかった。
 彼は母親に知られるのも紹介するのも照れくさかったのだろうと思う。

 だから半年以上は清い交際のままだった。
 物陰でキスをするだけの。
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