クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
 二時間はあっという間で、つらつらとそんなことを思ううち新幹線は京都駅に着いた。
 駅からはタクシーに乗りまっすぐに病院に向かい、駆け込むようにして入った病室。

「お母さん」
「紫織?」

 父は静かに眠っていた。
 母の話によれば一週間程度の入院で済むらしい。
 ひとまず安心してその日は夜まで病室に付き添い、母と家に帰った。

 次の日の朝。
「紫織。おはよう」
「おはようお母さん」

 母は、紫織が帰ってきたことを心から喜んでいるようだった。

 不安だったのだろう。
 そんなにうれしそうな顔をされると、戻るのが辛いな思いながら、紫織は母の手料理が並ぶ朝食の席についた。

「これ全部、お母さんが作ったの?」
 きんぴらごぼうに卵焼き。焼き鮭にきゅうりの浅漬け。ジャガイモの味噌汁。
 世間的には普通だろう。でも紫織の母はほとんど料理ができなかった。
 家政婦のいない暮らしに慣れるまでは大変で、最初の頃は紫織が料理を作っていたのである。そんな母が作る卵焼きと言えば目玉焼きかスクランブルエッグだったが、目の前の厚焼き玉子は焦げもなくふわりと柔らかそうだ。

「お母さんね、お料理教室に通っているの。この厚焼き玉子、食べてみて!美味しいのよぉ」

「へぇー」

 どれどれと厚焼き卵を口の中に入れてみると、甘すぎず辛過ぎず。見た目通りフワフワの歯ごたえだ。

「うん、美味しい!」
「でしょう? ウフフ」

 母は資産家の家に生まれたお嬢さまで、料理を含め家事は全て家政婦がするものだと育った。嫁ぎ先の『藤乃屋』は老舗呉服店として当時は母の実家以上に裕福だった。なので結婚してもその生活習慣を変えずに済んでいたので、紫織は母の手料理を食べたと言う記憶がない。

 その母が、料理教室に通って美味しい卵焼きを焼いているとは。

「すごいよ!お母さん。本当にすごい!」
 紫織はなんだか、泣きたくほどうれしかった。
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