クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
「ウフフ、ねぇ紫織、お父さんもエライのよ。こっちの商工会のみなさんと協力してね」
うんうんと頷きながら、紫織は自分だけじゃなかったと胸が締め付けられる思いがした。自分だけが歯を食いしばっていると思っていたが、そうじゃなかった。
――お父さんもお母さんも。みんな、頑張っているのね。
朝食を済ませ家事を手伝ったあと、紫織は、「お父さんになにか差し入れを買ってくるわね」と言って家を出た。
この家にはお正月くらいしか来たことがなかったし、すぐに戻ってしまったので周りのこともよくわからない。
家は店舗兼住宅で、場所はどちらかといえば観光地でも外れの方にある。観光客でごったがえす名所と比べると人影は随分とまばらだったが、居心地は悪くはない。そしてここがいいところは、高層ビルに囲まれた都内と違って、空が広いことだった。
夜の帳が落ちれば、満天の星が見えるだろう。
――宗一郎と見たいな。
『愛してる。今度こそ結婚してくれ、紫織』
そう言ってくれた一昨日の夜、ふたりで夜空を見上げたけれど、あまり星は見えなかったから。