クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
いつ夫人が席を立ち、店から出て行ったのか、その記憶はない。
ただ茫然として顔を上げた時、夫人はもういなくて。ひとくちも口をつけなかった冷えたコーヒーだけが残っていた。
白いカップの中で沈黙している黒い液体。
それはまるで、哀しみだけを吸い込む残酷な闇のようだと思った。
どこまでも続くどす黒い闇。
未来も夢も、紫織という宝も呑み込んだ希望のない闇――。
店を出て黙々と歩いた。
家に帰ると母は不在で、夢中になって片っ端から引き出しを開けて探していた時は、それでもまだ、夫人の話は嘘かもしれないという望みを捨てきれずにいた。
それなのに。
見つけ出した古い通帳。
そこには毎月、同じ金額が刻印されていたのである。
『……嘘だろ?』
藤村夫人が言ったとおりだった。五十万の金が、フジムラソウイチから振り込まれていた。毎月、毎月、月が変わるたびに一日になると、神経質なほど、その振込は必ずあった。
派手な暮らしをしていたわけじゃない。
下町の小さなアパートで、地味な暮らしではあったけれど、考えてみれば変だった。
ただ茫然として顔を上げた時、夫人はもういなくて。ひとくちも口をつけなかった冷えたコーヒーだけが残っていた。
白いカップの中で沈黙している黒い液体。
それはまるで、哀しみだけを吸い込む残酷な闇のようだと思った。
どこまでも続くどす黒い闇。
未来も夢も、紫織という宝も呑み込んだ希望のない闇――。
店を出て黙々と歩いた。
家に帰ると母は不在で、夢中になって片っ端から引き出しを開けて探していた時は、それでもまだ、夫人の話は嘘かもしれないという望みを捨てきれずにいた。
それなのに。
見つけ出した古い通帳。
そこには毎月、同じ金額が刻印されていたのである。
『……嘘だろ?』
藤村夫人が言ったとおりだった。五十万の金が、フジムラソウイチから振り込まれていた。毎月、毎月、月が変わるたびに一日になると、神経質なほど、その振込は必ずあった。
派手な暮らしをしていたわけじゃない。
下町の小さなアパートで、地味な暮らしではあったけれど、考えてみれば変だった。