クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
小学生の頃までは、母が寝込むと店屋物が届いた。
長く寝込む時はどこからか知らない女性が家事をしに来た。それが家政婦だったと気づいたのは大人になってからだ。
塾にも通ったし、服も靴も古ぼけたものは身に着けていなかったし、不自由を感じた記憶はなかった。
母は体があまり丈夫ではなく、寝込むことも多かった。働いて子供を育てるような体力はなかったし、母には頼れる身寄りもない。
いったいどこから収入があるのか。
シングルマザーでも母は働かず、それで生活できていたことを不思議に思ったことはもちろんあって、母に聞いたことがある。
『あなたのお父さんは、あなたがお腹にいた時に亡くなったの。でも、お金を残してくれたのよ。それに、お母さんは若いころ銀座の高級クラブで働いていたから、それなりに蓄えもあるの。だから大丈夫。何も心配はないわ』
そう答えた母の言葉を信じていた。
疑ったことなどない。
それだけ子供で、世の中のことをわかっていなかったといえばそれまでかもしれないが、そういうものかと不思議にも思わなかったのである。
あの時のショックをどう表現したらいいか。
紫織が妹だった?
そう思ったところで頭も心も受け付けられずただ呆然と通帳を見つめているところに、買い物から母が帰ってきた。
『母さん、これ、どういうことだよ?! フジムラソウイチって誰? この金はなに? 俺の父さんは死んだんじゃなかったのか?!』