クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
 母は泣きながら、話した。
『あなたのお父さんが亡くなったのは本当なの。藤村さんはお店のお客さんで、お母さんはどうしてもあなたを産みたくて、それで藤村さんに嘘を』

『嘘? 俺はこの、藤村さんの息子じゃないの?』

『違う。藤村さんじゃない。あなたの本当のおとうさんは別の人よ。石塚一郎って言う人なの。だからあなたの名前にに一郎っていう文字を入れたの』

 古い写真を見せてくれた。

 若かりし頃の母を挟んでふたりの男が立っている。母の右側に立っている男性が本当の父。石塚一郎。その人は大学院を卒業してそのまま大学で数学の研究に携わっていたという。
 左側にいる男性がフジムラソウイチ。すなわち紫織の父である藤村宗一氏だと母は言った。

 紫織とは兄妹ではなかった。
 ほっと胸をなでおろしたのも束の間。だからといってそれがうれしいとは、とても思えなかった。

 夫人の話によれば紫織の家はその時、倒産寸前。
 母の嘘で、養育費としていままで受け取った額にして年間六百万。二十年で一億二千万。その金は、ほとんど残ってはいない。
< 224 / 248 >

この作品をシェア

pagetop