クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
愕然とした。
紫織に合わせる顔もなかったし、自分が生まれたことさえ呪った。
でも、だからといって母を責めることなどできるはずもなかった。
体の弱かった母が、母子ふたりで生きるためについた嘘。たまたま紫織が妹かもしれないと知ったから恨んだだけで、そのことがなければむしろそんな嘘を感謝したのではないだろうか? 『藤乃屋』が倒産の危機に陥っていなければ?
嘘で養育費をもらったという後ろめたさから、いずれ返そうと思ったとしても、母を恨んだだろうか?
母には紫織を紹介してはいなかった。付き合っていた女の子がいることは知っていても、それが藤村氏の娘だとはこと知らないのである。
――言えなかった。
言えるわけがなかった。
養育費を渡す代わりに認知はしないことと、宗一郎という存在は、母と藤村氏と夫人の三人だけの秘密にすると約束したのだという。
『宗一郎が二十歳を迎えた年。私は藤村さんの奥さまに会ったの。最後の養育費を手渡しで受け取って二度と会わない約束をしたの。そして、このことは墓場まで持っていきましょうって。宗一郎にも藤村家のお嬢さんにも、誰にもこのことは内緒にしましょうと約束したのよ』