クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
 来週の週末、結納をかわすことになった。

 紫織の父も無事退院し、経過も順調なので早いほうがいいということになったのである。

 いま、紫織と宗一郎は一緒に住んでいる。
 部屋は紫織の部屋。もともとひとりでは広すぎるマンションには使いきれない部屋もあった。

『俺が住むには随分女の子らしいが、まあいいか』
『そうよ。宗一郎が用意した部屋だもの、自業自得よ?』

 何しろ彼の生活は慎ましいものだったので、引っ越し業者を頼むまでもなく、車を二度ほど往復するだけで全ての荷物を運び込めた。
 わかっていたとはいえ、これには驚いたが、彼のそんな寂しい暮らしは私が忘れさせてあげると紫織はやる気満々である。

 ――なにはともあれはよかった。
 運命のいたずらで皆がそれぞれに苦しんでしまったけれど、それでも多分、なにもなかった七年よりは、これからの人生が充実して見えるのではないだろうか。
 いまはまだわからないけれど、いつかきっと穏やかな気持ちで宗一郎とそんな話をしたいと思う。

 仕事がひと段落して向かった先は、二階にある休憩コーナー。
 朝は混雑するこの場所も、ほんの少し時間をずらせば人影はまばらになる。

 最初はブラックコーヒーにしようと思って、でもなんとなくカフェオレのボタンを押した。無理も我慢もし通しだったから、いまは少しだけ気の向くままに心の向くままでいたい。

 いいよね?と誰とはなしに言ってみて、カップに注がれるミルク色のコーヒーを見つめていると、カツカツと、足音が聞こえてきた。
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