クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
 年が明け、桜の花びらが舞い始めた春。
 ふたりの女性が小さなテーブルを囲んでいた。

 向かって右側の女性は和装、すっきりと髪を結いあげて、黒留袖の着物を着ている。
 反対側の女性はカールした長い髪を下ろし、ブラックのロングドレスに華やかなシャンパンゴールドの上着を羽織っている。
 年の頃は五十代だろうか。外見は対照的だが、どちらも甲乙つけがたいほどの美しい。

「こんな風にふたりきりで会うことになるとはねぇ」
「ほんと。嘘みたいな話」

 ――それもお互いの子供の結婚式で会うなんてね。
 呆れるようなため息をついたのは鏡原美咲。鏡原宗一郎の母だ。

 彼女はいま、京都にあるホテルのラウンジで、もうひとりの女性とコーヒーを飲んでいた。
鏡原美咲は、ワンピースドレスを着ている。
 対して、和服を着ているのは藤村雪野。紫織の母だ。

 一年前の、八月も終わろうとしていたある日。
 残暑見舞いに紛れて美咲のもとに、封書の手紙が届いた。

 昨今手書きの手紙が届くというのは珍しい。封筒には女性的な達筆な宛先が書いてあり、表にも裏にも送り先の記述はなかった。

 中に入っていたのは宗一郎と藤村紫織のDNA鑑定書。難しいことはわからないが、要するにふたりは兄妹ではないという鑑定結果が書かれていた。

 そして短冊が一枚。そこには、こう書かれていた。
『ふたりの結婚を祝福したいと思います。 藤村雪野』

 美咲は宗一郎に嘘をついていた。
 宗一郎の宗の字は本当の父親、藤村宗一からとったもの。そして一郎は彼女が愛してやまなかった石塚一郎から付けた。
 彼女が息子についた嘘。それは彼の父親は石塚一郎だと言ったことだ。彼の本当の父は藤村宗一である。
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