クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
***
『花マル商事』の廃業は、静かにその日を迎えた。
「こうして見ると、よく崩れ落ちなかったな」
「本当ですね。貸していた他のフロアは暫く空っぽだったし、なんだか引退を待っていたみたい」
室井課長と並んで見上げたビルはひっそりと佇んでいて、戦い疲れて眠りについた老兵のようだ。
「課長、ここはこのあと、どうなっちゃうんですか?」
「リフォームして新しいオフィスビルになるらしい。上の方は賃貸マンションにするとか言ってたな」
「そうですか」
たとえ形が変わっても、更地になるよりは、寂しくないかもしれない。
「ドーンと、ここを買う人が、これから行く会社の社長なんですよね?」
「ああそうだ。今を時めく青年実業家。いい男だったぞぉ」
「へえ」
このおんぼろビルを買ってリフォームして売り出すまでに、一体どれほどのお金がかかるのだろう。
ちゃん借り手がついて元が取れるかどうかもわからないのに、それだけのお金を用意するその人は、どんな気持ちでここを買うのだろうか。