クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
七年前別れた恋人。
彼はIT業界のどこかにいるだろう。
『私、お金のない人とは結婚できないの。わかるでしょ? 百年続く呉服屋の一人娘なのよ、私は』
あの日、彼に言い捨てた一字一句を、紫織は忘れていない。
忘れてはいけないと思っている。
純粋で綺麗に輝いていた彼の瞳から、光が消えた一瞬のことも。
まるで幕が下りたように、彼は瞼を閉じた。
そのシーンは深い傷となって、心の奥底に深く刻まれている。
――あわわ、こんな時になに暗くなっているの?
だめだめ今思い出すことじゃない。
我に返った紫織が深呼吸をしたところで、エレベーターからチンと軽い音が響く。
社長のいる、最上階の五階についた。
さあ、いよいよだ。
エレベーターを下りると、正面に見えた若い女性がスッと立ちあがり、微笑みながら紫織たちの元へ歩いてきた。
「こんにちわ。室井さん」