クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
 部屋の中から「はい」と、くぐもった男性の声が聞こえた。

「花マルの方がいらっしゃいました」
 ニッコリと笑った光琉ちゃんが、どうぞと促す。

 彼女の横を通り過ぎる時、ふわりと美味しそうな甘い香りがした。

 ――いよいよ面接だ。
 緊張のあまり、紫織の喉がゴクリと鳴った。

 頭をさげて社長室に足を踏み入れると。最初に、明るく広いガラス窓に目を奪われた。眩しくないように加工が施されているのか。微かにくすんで見える外には緑色をした細かい木の葉が見えて、優しく揺れている。

 この高さでどうしてそんな木が見えるのか?
 空中庭園でもあるのだろうか?
 どんなことになっているのかは紫織には想像もつかない。

 次に目に入ったのは、薄いグレーの床だ。
 そしてシンプルなテーブルと椅子。観葉植物がひとつ。余計なものはない。
 社長室は、この麗しい社屋を代表する者の部屋に相応しく、スタイリッシュで凛とした素晴らしい空間だった。

 窓から斜向かいの壁(壁には専門書と思われる本がずらりと並んでいる)に背を向けて、これまたお洒落なデスクに座る社長と思われる男性が、手元の書類に目を落としている。

 ――あ。
 テンポドロップ?
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