クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
その後は心を無にすることに努め、席を立った。
「じゃ、課長。私は帰りますね」
「そうか。じゃあ明日な」
「はい」
今日は、とりあえず面接だけで、正式には明日からということになっている。
副社長のはからいで、既に用意してあるという席に案内してもらっただけだった。
「――はぁ」
まだ明るい外に出ると、紫織は五階の社長室を見上げてキッと睨む。
窓にはブラインドが下りている。
なので彼の姿が見えるわけではないが、それでも腹の虫が収まらず、思い切りアッカンベーと舌をだした。更には花壇をガッと蹴ると、逆にジンジンと足が痛みだした。
「痛っ」
悔しさのあまり涙が出そうになって、また社長室を見上げたが、その怒りの気持ちさえブラインドに弾かれているような気がして、紫織は唇を噛んだ。
これでは負け犬の遠吠えではないか……。
――どうしてあんなにヒドイことが言えるのだろう?
あの頃。自分の心にあったものは、宗一郎への愛情だけだった。
彼が隣にいてくれればそれだけで幸せで、彼との未来しか見えなかったし、他の未来なんて考えたこともなかった。
世間知らずで、何も知らない紫織にとって、彼は世界そのものだった。
大学を卒業して小さなIT企業に就職した彼がプロポーズしてくれてうれしくて、両親に報告して。
――それで。
『私、お金のない人とは結婚できないの。わかるでしょ? 百年続く呉服屋の一人娘なのよ、私は』
あんな風に宗一郎を変えてしまったのは……。私なんだ。
私が。
――私が悪いんだ。
「じゃ、課長。私は帰りますね」
「そうか。じゃあ明日な」
「はい」
今日は、とりあえず面接だけで、正式には明日からということになっている。
副社長のはからいで、既に用意してあるという席に案内してもらっただけだった。
「――はぁ」
まだ明るい外に出ると、紫織は五階の社長室を見上げてキッと睨む。
窓にはブラインドが下りている。
なので彼の姿が見えるわけではないが、それでも腹の虫が収まらず、思い切りアッカンベーと舌をだした。更には花壇をガッと蹴ると、逆にジンジンと足が痛みだした。
「痛っ」
悔しさのあまり涙が出そうになって、また社長室を見上げたが、その怒りの気持ちさえブラインドに弾かれているような気がして、紫織は唇を噛んだ。
これでは負け犬の遠吠えではないか……。
――どうしてあんなにヒドイことが言えるのだろう?
あの頃。自分の心にあったものは、宗一郎への愛情だけだった。
彼が隣にいてくれればそれだけで幸せで、彼との未来しか見えなかったし、他の未来なんて考えたこともなかった。
世間知らずで、何も知らない紫織にとって、彼は世界そのものだった。
大学を卒業して小さなIT企業に就職した彼がプロポーズしてくれてうれしくて、両親に報告して。
――それで。
『私、お金のない人とは結婚できないの。わかるでしょ? 百年続く呉服屋の一人娘なのよ、私は』
あんな風に宗一郎を変えてしまったのは……。私なんだ。
私が。
――私が悪いんだ。