クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
彼を責める権利なんて、私にはない。
『紫織? 本気で言ってるのか? 俺じゃダメだって、お前は本気で……』
本心を見抜かれたくなくて、目を逸らした。
それでも涙は流さなかった。
わかったよと席を立った彼の後ろ姿を見ることも出来ず、あの日もこんなふうに、空っぽになった心を抱えて、人形のように歩いた。
止まった時間の中を、ただ歩いて……。
ポツリと顔が濡れ、空を見上げると、いつの間にか厚い雲が覆っている。
――そういえば、あの時も。
こんなふうに雨が降り出したっけ。
どんな風に歩いて、どうやって着いたのかもわからない。
追い打ちをかけるように降り出した雨が、追いかけるように絶望を呼んだんだ。
この雨と一緒に、そのまま溶けて流てしまえたら。