クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
お嬢さま育ちの紫織に、それ以外の生きる術はないとさえ言った。
『温室の花が、風雨に晒されて、生きられると思うの?』
泣いてすがる母を振りほどき、彼の元に走るようなことは、紫織にはできなかった。家族が不幸になるのを見捨てて、自分だけが幸せになれるはずもない。
自分さえ我慢すれば、『藤乃屋』は助かる。
そう思って捨てたのだ。
希望も夢も幸せな未来も、全て。
たったひとつでもいい。宗一郎の心の中で、楽しかった想い出と一緒に生きてさえいればそれでいいと、自分に言い聞かせた。
『――ごめんなさい、宗一郎。ごめんなさい』
そんな紫織の気持ちを、彼はなにも知らない。
彼は紫織が言った言葉をそのまま受け取って、紫織の前から消えた。