クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
 美由紀もそれなりに、インターネットで検索して精一杯お洒落をしていたつもりだったけれど、自分がいかに野暮ったくて訛っている格好悪い女の子かということはすぐに理解した。

 どんなに見た目がダサくても、心はみんなと変わらない。
 都会育ちの同級生達の、きれいに引かれたアイラインの目元とかグロスの塗られた唇の端に浮かぶ侮蔑の色に、気づかないほど鈍感じゃない。

 でも紫織は違う。
 お気に入りの手作りバックを『可愛い』と褒めてくれた。
 いつも穏やかで、ふんわりと優しい空気をまとっている紫織のとなりにいると、優しい気持ちになれる。紫織はそんな女の子だった。

 宗一郎も同じ大学の、理系の学生だった。

 文系だった紫織や美由紀と彼との接点は、大学の図書館の自習室。
 ある日の午後、アルバイトが終わって紫織と待ち合わせた図書館に行った時、紫織は彼と一緒にいて、見ればグラフ作成を教えてもらっているようだった。

 彼がどんなふうに、彼女に声をかけてきたのか細かいことはわからない。
 スラリと背が高くて、白いシャツにジーンズといういつも同じ格好をしている彼はいつも同じ席にいたので、存在は知っていた。

『工学部の鏡原さんよ。色々教えてもらっていたの』
 でも、長めの前髪と眼鏡で隠れていたのは、切れ長の魅力的な瞳だったことを、紫織に紹介されるその時まで知らなかった。
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