クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~

 やけくそな気分だった。
 ――よしっ! 歌ってやろうじゃないの。

 グラスに残っていたチューハイを一気に飲み干して、キュッと拳を握り、紫織は立ち上がった。

「今日はありがとうございます。では、いかせていただきます!」

 選んだ曲は、彼には絶対に聞かせたくはない、ド演歌。

 あなただけじゃない、
 私だって変わったのよ!と気合も十分に、こぶしを回しながら熱唱した。

 爆笑の渦と最高!という歓声があがる。

 ――歌いまくって吐き捨ててやる。
 宗一郎のバカヤロウ!
 何もできなくて、ただ泣いていた私じゃない。強くなったんだ!

「紫織さん凄―い!」

 アハハと笑い声が響く中で、光琉がふと拍手の手をとめた。
「あれ?」

「ん? どうした」
「今、社長がいたような気がするんですど」

 光琉はそう言いながら入り口のドアへと向かって廊下を覗いたが、誰の姿も見えなかった。
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