クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
「叩いてもいいですよぉ」
その声に振り返ると、中に入ったはずの光琉が戻っていて、「もうすぐタクシーが来ます」と言って肩をすくめた。
「さあ、あなた、今のうちにピシッと殴っていいですよ。ほら、社長も頬を出して」
光琉に促されるまま、左の頬を彼女に向けた。
やれやれと口内でため息をついたとき、ちょうど外から歩いてきた紫織が、目の前に来た。
――え? 紫織?
ビシッ!
「――っ」
「キャ」と悲鳴をあげたのは誰だったのか。
多分、紫織ではなかったと思う。
「あ、タクシー来ましたよ。さあ、気が済みましたよね」
光琉がタクシーの中に彼女を促して、運転手に金を渡した。
ため息をついて、ふと横を見れば、
ギョっとしたように目を丸くして、ポカンと開いた口に手を当てた紫織と目が合った。
――俺はやっぱり酷い男なんだよな?
なぁ、紫織。
いまタクシーに乗った彼女。あの子の名前は栞里。
そう、お前と同じ、“しおり”っていいうんだよ。