クールな社長の不埒な娶とり宣言~夫婦の契りを交わしたい~
 マンションの駐車場に車をとめて、時計を見ると十一時になっていた。

 警備員がいるエントランスを潜ってエレベーターを昇ると、その三階に彼の部屋がある。

 彼が住んでいるのは職場から近くセキュリティがしっかりしているというだけの、ワンルームのマンションだ。
 億ションでもなければタワーマンションでもない。

 彼の社会的立場を考えれば、あまりに地味ともいえるだろう。


 狭い玄関を進み、入った部屋にあるのはパソコンが三台並んだデスク。
 その他は本棚とベッド。壁にかかっているのはカレンダーのみで、最低限度の家具と仕事に関する物しかない。

 それでも彼には、それで十分だった。



 明くる朝。
 目覚ましのベルが鳴った時、彼は既にパソコンに向って仕事をしていた。

 結局ほとんど寝ていない。

 帰ってすぐ始めた仕事に集中し過ぎたせいかなかなか寝付けなかったし、それでも寝ようとして暗いうちにはベッドに潜り込んだが、
ようやく眠りに着いた時には夢でうなされた。


『ごめんな。――俺は、俺は』

 じっとりとした嫌な汗にまみれて窓を見れば、白々と夜明けが近づいていた。

 時折同じ夢をみてうなされる。

 最近はその夢もあまり見ることはなくなっていたのに、何故また見たのか。
 その理由に心あたりがないわけじゃないが、彼は深く考えないことにした。

 それきり寝ることをあきらめて、仕事を始めたのである。

 技術は日進月歩、気を緩めればあっという間に取り残される。仕事はしようとさえ思えばすることはいくらでもあるのだ。
 夢中になれるものが仕事だけというのは寂しいような気もするが、それでものめり込めるものがあるだけ、彼にとっては幸せなのかもしれない。
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