永久の痕は紅く
――黒のね、無地の封筒を用意するの。
中には真っ赤な薔薇の花びらを4枚入れて封をする。
そう、そうして表にこう書いて
『仔羊の血肉を捧げ 我は乞う』
あとはその手紙を新月の夜に出すの。
* * * * *
「ただいまー…」
無機質な扉を閉めて玄関をあがる。
いつものことだが、真っ暗な家から返ってくる声はなかった。
両親が家にいることはほとんどない。
少々変わった職種らしい彼らは娘の雪穂にもあまり仕事の話をしない。
ただひとつわかっているのは
まともな職業じゃないってこと。
二人の仕事部屋を開ければあるのは
いわゆるオカルトの部類。
とにかく胡散臭い。
まあ…真っ当なお金稼げてるならいいけどね。
二人が働いた給料(と呼ぶべきだろうか)で生活させてもらっているのだ。
この際文句は言わない。
たとえ、帰る我が家がいつも暗くても。
広い家にひとりぼっちでも。
もう慣れたことだ。
「卵…まだあったかな」
寄り道したせいでいつもより遅くなったから、スーパー寄らなかったんだよね。
そこまで考えて、雪穂は動きを止めた。
「……」
放課後の会話が、頭によぎる。
『迷信』
『ただの都市伝説』
でも――
ドサッ
「!?」
反射的に音がした方を振り返ると、鞄がテーブルから落ちていた。
チャックが開いたままだったので中身をぶちまけている。
「び…びっくりした…」
心臓飛び出るかと思ったよ。
もー、誰さこんな端にバック置いたのは!…私だけど。
ぶつぶつ言いながら散らばった荷物に手を伸ばし――またも止まった。
先には、寄り道した文具店で購入した黒い封筒。
…どくん
今夜は…新月、月は見えない。
どくん
迷信…都市伝説…でも
―――望みが、叶う―――
無意識のうちに、黒封筒を握っていた。