眠れない夜は、きみの声が聴きたくて
六回目のまた明日
スマホが壊れてきみとの写真も消えた時、これでリセットできたって思ったけれど、一体なにがリセットだったんだろうか。
なんにもちっとも、消えなかった。
考えないようにして、忘れようとしても、本当になにひとつ、きみだけは消せなかったんだよ。
夏休みはとくにやることもなく時間だけをもて余していた。学校から出された課題は早々に終わらせてしまったし、趣味でも見つけようと大人塗り絵を買おうとしてる私はどんだけ暇なんだろう。
「ねーね、どこー?」
閉めたはずの部屋のドアが開いていると思えば、未央がクマのぬいぐるみを抱っこしながら私のことを探していた。
熱中症で入院していた妹はすっかり回復して元気になった。
もちろん私の不注意で具合が悪くなってしまったことはわかっていない。
まだ二年しか生きていない未央は無垢すぎて、なんだか余計に自分が汚く思えてしまう。クッションの裏になんているわけがないのに「ねーね、ねーね」と私のことを呼び続けているのでさすがに声をかけた。
「ここだよ」
「どこに行ってたのー?」
「トイレ」
「未央はね、まだオムツ」
「うん、知ってる」
そんな会話をしていると、お母さんが階段を上がってきた。目が合ってお互いに気まずい顔をする。
未央のことで言い合いになって以来、私たちの空気はとてもギクシャクしていた。
お父さんを通してなにか言われるかもしれないと身構えていたけれど、結局なにもなかった。今はまた出張先へと戻り、定期的に他愛ない連絡を送ってくれるだけ。
もしかしたら様子を見ようと見守ってくれているのかもしれないし、あるいはお母さんが私とのことをお父さんに話していないのかもしれないし、それは聞いてないからわからない。
「これから未央を連れて買い物に行くけど……響も来る?」
「仕事は……?」
「まだ残ってるけど、未央が飽きてるから」
いつもの私だったら代わりに行くよと申し出ていた。いや、言う前にお母さんからお願いされていたに違いない。
好きでお姉ちゃんになったんじゃないと言ったこと。かなり小声だったけれどお母さんに聞こえていたんだろうか。きっと聞こえていたのだと思う。だから今は私に頼みにくいって顔をしている。
「……私はやることがあるから行かない」
やることなんてあるはずないけど、一緒に行ったって私はどんな顔をすればいいかわからないし、お母さんと未央が仲良くしてるところも微笑ましく見れる自信がない。
「……そう、わかったわ」
お母さんは言葉少なく、未央を連れて家を出ていった。