眠れない夜は、きみの声が聴きたくて
~旭side~
もしも、人生をやり直せるチャンスがあるのなら、俺は響と別れたあの日がいい。
誰よりも近い存在だったのに、俺たちはあっさりと離れた。
『元気でね』
あの言葉の裏側にあった彼女の寂しさに痛いほど気づいていたのに、俺はなんにもできなかった。
ここは山と田んぼに囲まれた田舎町。辺鄙という言葉がこれほどぴったりな場所はない。
どこを見渡しても景色は変わらず、マッチ箱を並べたような家々が並んでいる。
スーパーは山を越えなければないし、コンビニはあるけれど、二十四時間営業じゃない。
電車は一時間に一本、バスは二本あるけれど、移動手段は自転車に限る。
休日の過ごし方といえば駄菓子屋でもんじゃを食べることぐらいで、洒落たカフェもカラオケもないけれど、それなりに楽しく生活はできている。
「旭ー」
名前を呼ばれた気がして自転車のブレーキをかけると、同級生の早坂環がこちらに向かって歩いてきた。
「つか、なんで大根持ってんの?」
「横田のじいちゃんからもらったの。ほしい?」
「いや、うちも先週もらったのまだ使い切ってないから」
早坂は俺の自転車のカゴに大根を入れて、そのまま許可してないのに荷台に跨がってきた。
「はい、出発!」
当たり前のように背中を押されて、俺はペダルに足をかける。