眠れない夜は、きみの声が聴きたくて
「ねえ、旭は東京に遊びに行ったりしないよね。会いたい友達とかいないの?」
「……友達、ね」
「まさかいなかったとか?」
「そんなふうに見える?」
「全っ然見えない。旭って転校初日からみんなと仲良くなってたし。今じゃこの町の人全員と友達じゃん」
「まあ、否定はしない」
この町の人たちは都会から来た俺のことを温かく迎えてくれた。
ここで過ごして二年。最初は別の世界にトリップしてしまったのではないかと思うほど、目に入るものすべてがあの街とは違った。
でも今はあの街のことのほうが遠い世界のように感じている。
「わっ、なんでそっちに曲がるの!」
「近道じゃん」
「お尻痛いから!」
砂利道の振動と一緒に早坂の声も揺れる。それが面白くてスピードを速めると、彼女は怒るどころかケタケタと笑っていた。
人との距離感が近いこの町で、俺は早坂も知らない隠し事をいくつかしている。もちろん、響にさえ言えていないことがある。