眠れない夜は、きみの声が聴きたくて
*
あの頃の彼女は、みんなが赤と言っても、ひとりだけ青を選ぶような。
みんながまっすぐに進んでも、ひとりだけ曲がっていってしまうような。
俺には決して真似できないことをしていたのが、市川響という女の子だった。
半ば強引に彼女のことを引っ張って写真部へと入部した。
顔合わせとなる今日。部室に来ていたのは俺と市川のふたりだけ。どうやら新入生の部員はいないようで、今年入ったのは途中入部の俺たちだけのようだ。
「では、三浦くんが部長で、市川さんが副部長ってことでいいよね?」
開口一番に顧問からそんなことを言われた。
籍を置いてる三年生もいるらしいけれど、幽霊部員扱いでもはや数にも含まれていない。よって二年生という立場ながら、必然的に俺たちは役職を与えられることになった。
顧問は顔合わせが終わると、そそくさと掛け持ちしている部活へと行ってしまった。大会を控えている吹奏楽部に力を入れているようで、写真部にはあまり精力的でないことが窺える。
「じゃあ、私は帰るから」
「え、ま、待って」
足早に部室を出ていこうとする市川の手を思わず掴む。やせ形なのは見た目でわかっていたけれど、その手首の細さに驚いた。
……女の子ってみんなこんな感じなのか? 力を入れたら普通に折れてしまいそうだ。